空で砕けるか、
地面まで届くか。
隕石は、ただの大きな石ではありません。材質、速さ、角度、大気の厚み、地面の性質が絡み合って、同じ直径でも結果は大きく変わってきます。まずは、その分かれ道を押さえておきましょう。
直径が変わると、
エネルギーはどう変わる?
球形の岩石質天体と仮定すると、質量は密度×4/3πr³、運動エネルギーは1/2mv²で求められます。小さな天体は、このエネルギーの多くを大気に渡してしまうのです。
| 直径 | 質量 | 突入前エネルギー | モデル上の結末 |
|---|---|---|---|
| 10 m | 約1.57×10⁶ kg | 3.14×10¹⁴ J / 0.075 Mt | 高度約30.6 kmで空中爆発 |
| 50 m | 約1.96×10⁸ kg | 3.93×10¹⁶ J / 9.38 Mt | 高度約7.6 kmで空中爆発 |
| 200 m | 約1.26×10¹⁰ kg | 2.51×10¹⁸ J / 600 Mt | 最終クレーター直径 約3.54 km |
| 1 km | 約1.57×10¹² kg | 3.14×10²⁰ J / 75,000 Mt | 最終クレーター直径 約15.6 km |
| 5 km | 約1.96×10¹⁴ kg | 約9.38×10⁶ Mt | 地球規模の気候影響を考える領域 |
| 10 km | 約1.57×10¹⁵ kg | 約7.50×10⁷ Mt | チクシュルーブ級に近い地球規模の衝突 |
| 100 km | 約1.57×10¹⁸ kg | 約7.50×10¹⁰ Mt | 生物圏を大きく組み替えうる概念比較 |
| 約9,000 km | 約1.15×10²⁴ kg | 約5.5×10¹⁶ Mt | 地球の重力結合エネルギーに迫る仮想衝突 |
この表を見ると、直径が1桁変わるたびにエネルギーは1,000倍ずつ増えていくことが分かります。それと同時に、現象そのものが「空で終わる」ものから「地面を砕く」ものへ、さらに「地球全体を揺るがす」ものへと変わっていくのです。
過去の記録を、
比較の参考にする。
空中爆発の衝撃波も、地面をえぐったクレーターも、地球には実物が残っています。東京のケースを考えるとき、こうした過去の現象が有力な参考になります。
バリンジャー・クレーターは、約30〜50 mの鉄隕石が残した約1.2 km幅のクレーターです。材質の違いが、空中爆発に終わるか地表衝突に至るかを左右するのです。
都市に落ちると、
死傷者はどう試算される?
物理モデルが描き出すのは、火球、衝撃波、クレーターです。そこに東京の人口や建物を重ねていくと、現象が都市の出来事として立ち上がってきます。数字が、どんな前提から生まれるのかを確認しておきましょう。
| 帯域 | 人口入力 | 死亡率の感度帯 | 傷害率の感度帯 |
|---|---|---|---|
| 5 psi以上 | 深刻な爆風圏の昼間人口 | 20〜85% | 15〜50% |
| 1〜5 psi | 外縁の昼間人口 | 0〜10% | 3〜20% |
| 熱・破片・火災 | 地表衝突ケースで追加 | 規模ごとに上乗せ | 規模ごとに上乗せ |
衝撃波の帯域に人口を重ねると、物理の数字は都市の被害へと姿を変えます。ここでは、同じ落下でも条件や時間帯で影響の広がりがどう変わるかを見ていきます。
8つの落下を、
規模ごとに比べる。
10 mから1 kmまでは、東京と関東を範囲とする地図で読めます。5 kmを超えると、食料・気候・海洋を含む地球のシステムへと視点が移っていきます。100 kmと約9,000 kmは、隕石災害の範囲を超えた、惑星科学の概念比較です。
直径10 m:空で砕ける
高度約30.6 kmの空中爆発を想定
モデル上、10 mの岩石質天体は高高度で分解してしまいます。中心から100 mでも過圧は0.081〜0.163 psiにとどまり、深刻な建物被害圏は生じません。火球、ソニックブーム、そして観測上の驚きが、主な出来事になります。
この入力では深刻な爆風圏を置きません。破片の落下、窓ガラス、偶発事故は別モデルが必要で、広い死傷者数には変換しません。
直径50 m:東京の上空で起こる大規模空中爆発
高度約7.6 kmで約8.26 Mt TNT相当を大気へ放出
20 km地点で2.84〜5.68 psi、50 km地点で0.81 psi。5 psiの境界は約20 km、1 psiの境界は約45〜50 kmと読めます。クレーターはできなくても、爆風とガラス破損の範囲は首都圏一帯に広がっていくのです。
5 psi圏の死亡率20〜45%と、1〜5 psi圏の追加被害を感度帯で合算しています。空中爆発高度・建物性能・時間帯で、数字は大幅に動きます。
直径200 m:大気を抜け、地表へ届く
最終クレーター直径 約3.54 km、地震規模の揺れも伴う
200 mでは、破砕されながらも地表へ到達します。20 kmで13.2 psi、50 kmで2.43 psi。5 psiの境界は約35 km前後です。クレーター、火球、噴出物、爆風、地震動が、数秒から数分の時間差で次々と重なってきます。
5 psi圏の死亡率40〜65%に、外縁の爆風と熱・噴出物の追加被害を感度帯で合算しています。救助・医療の機能低下は未反映です。
直径1 km:東京の災害ではなく、関東の危機になる
最終クレーター直径 約15.6 km、エネルギーは約75,000 Mt TNT
東京駅付近そのものがクレーターに含まれる想定です。50 km地点で68.4 psi、100 km地点でも15.8 psi。5 psiの深刻な爆風圏は100 kmを大きく超え、関東全体のインフラ、医療、物流、避難先が同時に損なわれてしまいます。
半径100 km超の5 psi圏に4,000万人以上という人口入力を置いた感度分析です。実際には、範囲外への避難、火災、二次災害、広域支援不能が結果を左右します。
直径5 km:被害が日本を超え、供給網に及ぶ
エネルギーは約940万Mt TNT。問題は日射と食料に移る
5 km級では、衝突地点から離れた場所も無傷では済みません。岩石の蒸気、粉じん、噴出物が上空へ運ばれ、日射量と気温を変える可能性があるためです。港湾や工場の被害に加え、作付け、漁業、輸送、備蓄といった、時間単位の長い連鎖が前面に出ます。東京に落とす仮定とはいえ、もはや東京だけの災害では済まされません。
直径10 km:人類の存続を扱う規模
チクシュルーブ級に近い。地球の生態系全体が影響を受ける
約6600万年前のチクシュルーブ衝突は、直径約10 kmの天体が有力視され、白亜紀末の大量絶滅と結び付けられています。当時、人類はまだ存在しませんでした。そのため「同じことが起きれば人類が必ず滅びる」とは言えません。ただし、急激な寒冷化、光量低下、食物網の崩壊が重なれば、現代文明の維持、ひいては人類の生存圏が問われる規模になるのです。
直径100 km:地球の表面環境そのものが変わる
人類の被害より、地球環境の前提を考える規模
100 km級では、エネルギーは10 km級のさらに1,000倍に達します。直接の衝撃と火球に続き、大気に運ばれる粉じんや蒸気、海洋への影響が、気候を長く変えてしまいます。ここでは「東京に落ちる」という設定そのものが意味を失い、地球全体の光、熱、水、食料網をどう失うかが問題になってきます。
約9,000 km:地球を維持できなくする衝突
これは隕石ではない。惑星に近い天体との仮想的な巨大衝突
地球を物理的にばらばらにする目安は、地球の重力結合エネルギー、約2.24×10³² Jです。岩石質の天体が20 km/sで衝突すると仮定すると、これに近いエネルギーを持つのは、直径およそ9,000 km、質量が地球の約2割に迫る天体になります。火星より大きく、もはや「小惑星落下」とは呼べません。
隕石の後、東京は
何から止まるか。
爆風の半径だけでは、都市の出来事は終わりません。移動が止まり、通信が混み、物流が経路を失い、仕事が場所を探し始めます。ここでは50 m級の空中爆発から200 m級の地表衝突までを想定し、都市活動の変化を時間順に見ていきます。
最初の15分
判断の前に止まるもの
鉄道・道路・エレベーター・工場は、揺れや通信断を受けて自動停止や安全確認に入ります。壊れた設備だけが問題ではありません。無事な区間も、情報が足りないために動かせなくなります。乗客や通勤者は駅、オフィス、道路に分散したまま、次の行動を待つことになります。
その日の午後
つながると届くが分かれる
データセンターや携帯基地局には非常電源がありますが、通信網は電力、光回線、燃料、保守要員の移動に支えられています。決済、予約、配車、在庫管理はオンラインで残っていても、人や物が届かなければ都市の機能は動きません。金融市場も、価格より前に、取引所・銀行・清算機関の業務継続が問われます。
数日から数週間
復旧より先に迂回が始まる
物流は港湾、幹線道路、倉庫を避ける代替ルートを探し、企業は拠点を分散し、働く場所を移し始めます。被害が中心部に集中するほど、工場より、発注・通関・配送・顧客対応といった結節点の損失が大きくなります。被災していない地域も、部品不足や人手の偏りを通して影響を受けるのです。
経済損失を一つの金額にはまとめません。落下時刻、休業日か平日か、停電の長さ、代替拠点、避難範囲、国外との物流接続で桁が変わるためです。代わりに、被害が設備から活動へどう伝わるかを見ていきます。
人の視点
最初に必要なのは、正確な全体像よりも、家族と連絡が取れるか、今いる建物から出てよいか、どこで一晩過ごすかという、切実な判断です。
事業の視点
被災地の売上が止まるだけではありません。取引先、在庫、従業員、データ、決済が別々の場所で止まり、復旧の順番を組み替える必要が出てきます。
数字の背景を、
確認しておく。
物理モデルの出力には、不確実性があります。数字の背景にある条件を確認したうえで読むと、結果の意味が変わってきます。ここでは、その前提を整理しておきます。
- Earth Impact Effects Program:Marcus、Melosh、Collinsによる衝突効果計算。空気爆風、熱、クレーター、噴出物の概算に使用。
- NASA Asteroid Facts:10 m、50 m、140 m、1 km級の危険性、チェリャビンスク、ツングースカ、バリンジャー・クレーターの解説。
- NASA Earth Observatory: Tunguska:ツングースカの推定規模と空中爆発の記述。
- USGS: Impact mechanics at Meteor Crater:バリンジャー・クレーターのエネルギー推定。