シミュレーションの
前提と計算方法
東京の地表で、揺れの強さ(震度)を5弱から7まで1段階ずつ変えたとき、建物がどれだけ壊れるかを計算します。震度ごとに「揺れの最大速度(PGV)」を求め、それを建物の被害関数に当てはめて全壊率を出します。
ここで計算する数字は、気象庁の計測震度とPGVの経験式、および内閣府の地震被害想定で用いられる建物被害関数(脆弱性関数)を簡略化した教育用のシミュレーションです。実際の被害は地盤の軟弱さ、建物の構造、年代構成によって大きく変わります。特定の地震や地域の予言ではありません。
震度が1上がると
揺れは何倍になるか
震度の階級は10段階(0〜4、5弱・5強、6弱・6強、7)ありますが、建物への影響が現れ始める震度5弱から上を見ていきます。まず、震度からPGV(地盤の最大速度)を計算する経験式を使って、揺れの強さを比べてみましょう。
| 震度 | PGV(最大速度) | 体感・影響の目安 |
|---|---|---|
| 5弱 | 約15 cm/s | 壁に亀裂、行動に支障 |
| 5強 | 約25 cm/s | 家具が倒れる、屋根瓦が落ちる |
| 6弱 | 約36 cm/s | 耐力壁に亀裂、立っていられない |
| 6強 | 約56 cm/s | 耐力壁が破壊、屋根が落ちる |
| 7 | 約96 cm/s | 木造住宅の大半が倒壊 |
PGVは計測震度 I から PGV ≈ 10^(0.39·I − 0.67) の経験式で求めた概算値です(気象庁・防災科学技術研究所の地震動予測で用いられる関係を簡略化)。実際の地震では地盤条件により大きくばらつきます。
震度5弱から7まで
揺れを1段ずつ強くしたら
では、震度を5弱から7まで1段階ずつ上げていき、それぞれで建物がどれだけ壊れるかを見てみましょう。建物は1981年以前の旧耐震基準の住宅を基準にします。ここで「壁」が見えてきます。
震度5弱
震度6弱
震度6強
震度7
震度別に
全壊戸数を比較する
全壊率を東京23区の約430万戸の住宅ストックに当てはめると、震度ごとに壊れる建物の数が出ます。数字を見ると、ある震度を境に被害が桁違いになることが分かります。
震度6弱までは全壊戸数が数万戸規模ですが、震度6強で約57万戸に跳ね上がり、震度7では約207万戸に達します。「被害の壁」を跨ぐと、被害が桁で変わるのです。
旧耐震と新耐震で
被害はどう変わる?
ここまで旧耐震(1981年以前)の建物を基準に見てきました。では、1981年に改正された新耐震基準を満たす建物ならどうなるでしょうか。同じ震度でも、建物の強さが変われば結果は劇的に変わります。
| 震度 | 旧耐震の全壊率 | 新耐震の全壊率 | 差 |
|---|
新耐震基準は1981年5月施行。東京都の住宅ストックでも1981年以前の建物はまだ数多く残っており、これらが被害を大きくする要因になります。耐震診断と補強が、個人にできる最も効果的な対策です。
条件を変えて
シミュレーションする
ここまで固定条件で見てきました。では、自分の条件ではどうなるか。震度と建築年代(旧耐震・新耐震)の2つを動かして、全壊率と壊れる建物の数をその場で計算できます。スライダーを動かすたびに、結果が変わります。
震度に対する全壊率カーブ(赤い縦線が現在の震度)
計算方式は記事全体と同じ、PGV経験式と建物被害関数(旧耐震・新耐震それぞれ)を使った教育用シミュレーションです。実際の被害は地盤条件や建物の構造・状態に大きく依存します。特定の地震や建物の予言ではありません。
計算の前提と
注意点まとめ
この記事の数字は、気象庁の計測震度と内閣府の地震被害想定で用いられる建物被害関数を、教育用に簡略化したシミュレーションです。現実の地震被害を予言するものではありません。使った前提と、モデルの限界を整理しておきます。
使った前提
- 計測震度 I とPGVの経験式 PGV ≈ 10^(0.85·I − 1.2)
- 木造住宅の全壊率関数(PGVベースの脆弱性曲線)
- 東京23区約430万戸の住宅ストック(仮定)
- 旧耐震(1980年以前)と新耐震(1981年以降)の2区分
- 地盤は「工学的基盤」を仮定(軟弱地盤の増幅は含まず)
モデルの限界
- 実際の被害は地盤の軟弱さ、液状化、建物の構造で大きく変わる
- PGVは震源距離と深さで変わり、1つの震度で一意には決まらない
- 火災、津波、ライフライン断などの二次被害は含んでいない
- 死傷者数は計算しておらず、全壊戸数のみを示している
- 被害関数は統計的な平均であり、個別の建物の壊れやすさではない
震度が1階級上がると揺れは約2倍になり、被害は非連続に跳ね上がる。しかし建物の強さが変われば、その壁は下げられる。1981年の新耐震基準、そして既存建物の耐震補強は、「個人の壁」を確実に上げる手段です。
根拠と参照
- 気象庁「震度について」— 計測震度と震度階級の定義
- 内閣府 中央防災会議「首都直下地震の被害想定」— 建物被害関数と被害想定手法
- 防災科学技術研究所「地震動予測地図」— PGVと計測震度の経験関係
- 建築基準法(1981年改正)— 新耐震基準の施行
- 司・翠川ほか「地震動と建物被害の関係」— PGVに基づく脆弱性関数の研究