震度7 揺れる東京という文字と傾いたビル群を描いたサムネイル

更新:2026.08.02

東京直下地震の
「震度の壁」とは

震度5弱、5強、6弱、6強、7。揺れを1段階ずつ強くしたとき、被害はどこで跳ね上がるのか。建物の全壊率と最大速度(PGV)の関係から、計算でたどるシミュレーションです。

星宮メル
星宮メルお、ハルト来た! 今日は何のお話?
天城ハルト
天城ハルト東京直下地震だ。30年以内に70%の確率で起きるとされる。
星宮メル
星宮メルえーっ!? 70%!? ほぼ来るじゃん……揺れとかどれくらいなの?
天城ハルト
天城ハルト震度6強から7が想定されている。ただ、面白いことに「震度が1上がる」だけで、建物の壊れ方が段違いに変わる。その境界が今日のテーマだ。
星宮メル
星宮メル境界……? 震度6と7って、どっちもすごい揺れでしょ? 違うの?
天城ハルト
天城ハルト全く違う。震度が1上がると、揺れの強さは約2倍になる。そしてある震度を超えた瞬間、建物の全壊率が跳ね上がる。それを「震度の壁」と呼ぶことにしよう。計算で見せる。
星宮メル
星宮メルなるほどね、揺れが強くなるとあるところでガクッと変わるんだ。怖いけど、わくわく……いや、やっぱり怖い!
天城ハルト
天城ハルト怖がるだけでなく、知っておけば備えが変わる。では始めよう。
CHAPTER 01 / 条件をそろえる

シミュレーションの
前提と計算方法

東京の地表で、揺れの強さ(震度)を5弱から7まで1段階ずつ変えたとき、建物がどれだけ壊れるかを計算します。震度ごとに「揺れの最大速度(PGV)」を求め、それを建物の被害関数に当てはめて全壊率を出します。

星宮メル
星宮メル震度とPGVって別物なの? どっちも揺れの強さじゃないの?
天城ハルト
天城ハルト震度は「人が感じる揺れの強さ」を10段階で表したもの。PGV(Peak Ground Velocity)は地盤が実際に動いた「最大速度」で、cm/sで測る。震度は便利だが、建物の壊れ方を計算するにはPGVの方が直接効く。
星宮メル
星宮メルなるほど、震度からPGVに変換して、それで建物の壊れやすさを見るんだね。どんな設定で計算するの?
天城ハルト
天城ハルト東京23区の住宅ストックを想定し、建築年代で「1981年以前の旧耐震」と「1981年以降の新耐震」に分ける。建物の数は約430万戸と仮定する。これを震度ごとに壊れる数を計算する。
対象地域東京23区
住宅ストック約430万戸
揺れの指標計測震度 I
最大速度PGV (cm/s)
建物分類旧耐震 / 新耐震
被害の指標全壊率・半壊率

ここで計算する数字は、気象庁の計測震度とPGVの経験式、および内閣府の地震被害想定で用いられる建物被害関数(脆弱性関数)を簡略化した教育用のシミュレーションです。実際の被害は地盤の軟弱さ、建物の構造、年代構成によって大きく変わります。特定の地震や地域の予言ではありません。

CHAPTER 02 / 揺れの強さ

震度が1上がると
揺れは何倍になるか

震度の階級は10段階(0〜4、5弱・5強、6弱・6強、7)ありますが、建物への影響が現れ始める震度5弱から上を見ていきます。まず、震度からPGV(地盤の最大速度)を計算する経験式を使って、揺れの強さを比べてみましょう。

星宮メル
星宮メル震度が上がると、PGVも上がるんでしょ? どれくらい変わるの?
天城ハルト
天城ハルト震度5強でPGVは約25cm/s、震度6強で約56cm/s、震度7で約96cm/sになる。震度が1階級上がるごとに、揺れの速度はほぼ2倍だ。人間の感覚では「ちょっと強くなった」程度に思えるが、建物にとっては致命的な差になる。
震度階級別の最大速度(PGV)。1階級上がるごとに約2倍になる。
震度PGV(最大速度)体感・影響の目安
5弱約15 cm/s壁に亀裂、行動に支障
5強約25 cm/s家具が倒れる、屋根瓦が落ちる
6弱約36 cm/s耐力壁に亀裂、立っていられない
6強約56 cm/s耐力壁が破壊、屋根が落ちる
7約96 cm/s木造住宅の大半が倒壊

PGVは計測震度 I から PGV ≈ 10^(0.39·I − 0.67) の経験式で求めた概算値です(気象庁・防災科学技術研究所の地震動予測で用いられる関係を簡略化)。実際の地震では地盤条件により大きくばらつきます。

CHAPTER 03 / 震度別で追う

震度5弱から7まで
揺れを1段ずつ強くしたら

では、震度を5弱から7まで1段階ずつ上げていき、それぞれで建物がどれだけ壊れるかを見てみましょう。建物は1981年以前の旧耐震基準の住宅を基準にします。ここで「壁」が見えてきます。

星宮メル
星宮メル1段階ずつ上げてくんだ。どの辺から変わるの?
天城ハルト
天城ハルト震度6弱までは「壊れ始める」程度で数%。だが震度6強に上がった瞬間、全壊率が3倍以上に跳ね上がる。そして震度7で決定的になる。下のグラフを見ると、カーブが震度6強のあたりで立つのが分かるはずだ。
震度別の木造住宅の全壊率(旧耐震)。震度6強で跳ね上がる。
01

震度5弱

02

震度6弱

03

震度6強

04

震度7

CHAPTER 04 / スケールで読む

震度別に
全壊戸数を比較する

全壊率を東京23区の約430万戸の住宅ストックに当てはめると、震度ごとに壊れる建物の数が出ます。数字を見ると、ある震度を境に被害が桁違いになることが分かります。

震度別の建物全壊戸数(旧耐震・東京23区430万戸想定)

震度6弱までは全壊戸数が数万戸規模ですが、震度6強で約57万戸に跳ね上がり、震度7では約207万戸に達します。「被害の壁」を跨ぐと、被害が桁で変わるのです。

CHAPTER 05 / 建物の強さを変えて読む

旧耐震と新耐震で
被害はどう変わる?

ここまで旧耐震(1981年以前)の建物を基準に見てきました。では、1981年に改正された新耐震基準を満たす建物ならどうなるでしょうか。同じ震度でも、建物の強さが変われば結果は劇的に変わります。

星宮メル
星宮メル新耐震って、新しい建物のことだよね? どれくらい違うの?
天城ハルト
天城ハルト1981年の建築基準法改正で、震度6強〜7の揺れにも倒壊しないことが求められるようになった。同じ震度6強でも、旧耐震は約13%が壊れるが、新耐震は1%未満に抑えられる。震度7でも旧耐震の約48%に対し、新耐震は約5%だ。これが「壁」を低くする効果だ。
星宮メル
星宮メルえ、そんなに違うの!? じゃあ新しい建物に住んでれば大丈夫ってこと?
天城ハルト
天城ハルト「大丈夫」とは言えないが、生存率は段違いに上がる。古い家なら耐震補強が、新しい家ならそれを維持することが、個人の「壁を下げる」手段になる。
震度旧耐震の全壊率新耐震の全壊率
旧耐震(赤)と新耐震(青)の全壊率比較。壁の高さが違う。

新耐震基準は1981年5月施行。東京都の住宅ストックでも1981年以前の建物はまだ数多く残っており、これらが被害を大きくする要因になります。耐震診断と補強が、個人にできる最も効果的な対策です。

CHAPTER 06 / 自分で計算してみる

条件を変えて
シミュレーションする

ここまで固定条件で見てきました。では、自分の条件ではどうなるか。震度と建築年代(旧耐震・新耐震)の2つを動かして、全壊率と壊れる建物の数をその場で計算できます。スライダーを動かすたびに、結果が変わります。

星宮メル
星宮メルおお、自分で計算できるの!? 震度と建物の年齢を動かせるんだね!
天城ハルト
天城ハルト震度を上げていくと、ある点で全壊率が跳ね上がるのが見えるはずだ。そして建物を「新耐震」に切り替えると、その壁がぐっと下がる。2つの数字を動かして確かめると良い。
星宮メル
星宮メルじゃあ震度7にして、旧耐震にしたら……えーっ、めちゃくちゃ壊れる!? 怖い!
天城ハルト
天城ハルトその通り。逆に新耐震にすれば、同じ震度7でも数字は半分以下になる。建物の強さが、そのまま命を守る壁になる。
震度5弱震度7
旧耐震(1980以前)新耐震(1981以降)
1万500万
最大速度 PGV
建物全壊率
全壊戸数
半壊戸数

震度に対する全壊率カーブ(赤い縦線が現在の震度)

計算方式は記事全体と同じ、PGV経験式と建物被害関数(旧耐震・新耐震それぞれ)を使った教育用シミュレーションです。実際の被害は地盤条件や建物の構造・状態に大きく依存します。特定の地震や建物の予言ではありません。

CHAPTER 07 / 根拠と限界

計算の前提と
注意点まとめ

この記事の数字は、気象庁の計測震度と内閣府の地震被害想定で用いられる建物被害関数を、教育用に簡略化したシミュレーションです。現実の地震被害を予言するものではありません。使った前提と、モデルの限界を整理しておきます。

使った前提

  • 計測震度 I とPGVの経験式 PGV ≈ 10^(0.85·I − 1.2)
  • 木造住宅の全壊率関数(PGVベースの脆弱性曲線)
  • 東京23区約430万戸の住宅ストック(仮定)
  • 旧耐震(1980年以前)と新耐震(1981年以降)の2区分
  • 地盤は「工学的基盤」を仮定(軟弱地盤の増幅は含まず)

モデルの限界

  • 実際の被害は地盤の軟弱さ、液状化、建物の構造で大きく変わる
  • PGVは震源距離と深さで変わり、1つの震度で一意には決まらない
  • 火災、津波、ライフライン断などの二次被害は含んでいない
  • 死傷者数は計算しておらず、全壊戸数のみを示している
  • 被害関数は統計的な平均であり、個別の建物の壊れやすさではない

震度が1階級上がると揺れは約2倍になり、被害は非連続に跳ね上がる。しかし建物の強さが変われば、その壁は下げられる。1981年の新耐震基準、そして既存建物の耐震補強は、「個人の壁」を確実に上げる手段です。

星宮メル
星宮メルなるほどね。震度の壁はあるけど、建物を強くすれば壁が下がるんだ。わかりやすい!
天城ハルト
天城ハルトそう。地震そのものは止められないが、被害の跳ね上がりを防ぐことはできる。まずは自分の家がいつ建ったか、耐震診断を受ける価値があるかを知ることだ。

根拠と参照

  • 気象庁「震度について」— 計測震度と震度階級の定義
  • 内閣府 中央防災会議「首都直下地震の被害想定」— 建物被害関数と被害想定手法
  • 防災科学技術研究所「地震動予測地図」— PGVと計測震度の経験関係
  • 建築基準法(1981年改正)— 新耐震基準の施行
  • 司・翠川ほか「地震動と建物被害の関係」— PGVに基づく脆弱性関数の研究
星宮メル
星宮メルよし、じゃあ帰ったら実家がいつ建ったか聞いてみよっと! 耐震診断とかあるんだよね?
天城ハルト
天城ハルトある。多くの自治体が無料の耐震診断を提供している。……まずは調べることからだ。