ゾンビ感染 30日目という文字と崩れゆく街並みを描いたサムネイル

更新:2026.08.02

もし1人のゾンビから
感染が始まったら?

ドラマのようなゾンビパンデミックが、たった1人の感染者から始まったら、街は何日で崩壊するのでしょうか。感染症の数理モデルであるSIRモデルを使い、1日あたりの広がり方を計算で追うシミュレーションです。

星宮メル
星宮メルお、ハルト来た! 今日は何のお話?
天城ハルト
天城ハルトゾンビだ。映画やドラマで描かれる、感染が広がる設定の。
星宮メル
星宮メルゾンビ!? ホラー系? やばいやつじゃん! わくわく〜!
天城ハルト
天城ハルトいわゆるフィクションだが、感染がどう広がるかは数式で追える。現実の感染症と同じ枠組みで考えると、色々なものが見えてくる。
星宮メル
星宮メルへえ、ゾンビも計算できるんだ。で、結局どうなるの?
天城ハルト
天城ハルト1万人の街に1人現れたとして、何もしなければ約1ヶ月で崩壊する。
星宮メル
星宮メルえーっ!? たった1人から!? うそでしょ!?
天城ハルト
天城ハルト怖がらせるためではなく、広がりの速さと、対策がどれだけ効くかを見るためだ。実は対策次第で、結末は大きく変わる。順を追って見ていこう。
CHAPTER 01 / 条件をそろえる

シミュレーションの
前提と計算方法

シミュレーションを始める前に、5つの条件を決めておきます。人口・初期感染者・感染力・発症までの期間・罹患期間です。このうち4つを固定し、感染力だけを変えて、広がり方がどう変わるかを見ていきます。

星宮メル
星宮メル条件を固定しないと比較できないもんね。どんな設定にするの?
天城ハルト
天城ハルト閉鎖された街に1万人が住んでいて、初期感染者は1人。感染したら1日で発症し、平均4人に噛みつくまで約5日間活動する。この4人という数字が「基本再生産数R0」で、これを3・4・5・6と変えて広がりを見る。
星宮メル
星宮メル1人から4人!? それ増えすぎじゃない?
天城ハルト
天城ハルトインフルエンザで1〜2、麻疹で12〜18と言われている数字と比べると、4は中程度だ。しかし発症まで1日は早い。この速さが、後で効いてくる。
人口(閉鎖空間)10,000人
初期感染者1人
発症まで1日
罹患期間約5日
動かす変数基本再生産数 R0
比較スケールR0 = 3 → 6

ここではドラマや映画のような「噛まれたら急速に感染し、感染者が新たな人を噛みにいく」タイプのゾンビを想定します。現実の感染症とは性質が違いますが、広がり方を計算する枠組み(SIRモデル)は同じです。数値は教育用の設定であり、特定の実在の疾病を示すものではありません。

CHAPTER 02 / 広がりを決める数字

基本再生産数 R0 とは何か

感染がどれだけ広がるかを決める一番重要な数字が「基本再生産数 R0(アールゼロ)」です。1人の感染者が、誰も免疫を持たない状態で平均して何人にうつすかを示します。R0が1より大きければ感染は広がり、1より小さければ自然に収束します。

星宮メル
星宮メルR0が1を超えると広がるってこと? 2でも3でも?
天城ハルト
天城ハルトああ。1を超えれば指数関数的に増える。2なら1→2→4→8、3なら1→3→9→27と増える。ここではR0=4を中心に見る。1→4→16→64→256と、たった4周期で256人になる。
星宮メル
星宮メルうわ、倍々ゲームじゃん……止まらなくなりそう。
天城ハルト
天城ハルトただし無限には増えない。人口が有限だから、感染できる人が減ると広がりは鈍る。それがSIRモデルのS(未感染者)の減少だ。次の章で実際の曲線を見る。
人口1万人・初期1人:R0を変えたときの感染者数の推移

R0が大きいほど、ピークが早く・高くなります。R0=3では緩やかに広がりピークも低いですが、R0=6では十数日で急激に立ち上がり、人口の大部分が一気に感染波に飲み込まれます。R0=4はその中間で、ドラマ的設定としてよく使われる値です。

CHAPTER 03 / 1人から始まる

R0=4のとき
1万人の街で何が起きるか

ここから先は R0=4 に固定して、1万人の街で感染がどう進むかを1日ずつ追います。初期感染者は1人、発症まで1日、罹患期間は5日間です。SIRモデルで計算した、日ごとの感染者数と累計感染者数を見ていきます。

星宮メル
星宮メル1人から始まって、毎日どう変わるかを見るんだね。
天城ハルト
天城ハルトそうだ。最初は1日数人の増え方でも、1週間もすると数十人、2週間で数百人に跳ね上がる。これが指数関数的な増加だ。表とグラフで、その「急加速」を見てほしい。
星宮メル
星宮メル最初ゆっくりなのに、ある日突然爆発するってこと?
天城ハルト
天城ハルトふむ。突然ではなく、毎日一定の割合で増えている。ただ人間の感覚は直線に慣れているため、指数関数の「ある時点からの急上昇」を突然のように感じるだけだ。それが感染拡大が恐れられる理由の一つでもある。
R0=4・人口1万人:1日ごとの感染者数・累計感染者・残り未感染者
新規感染者現在の感染者累計感染者残り未感染

CHAPTER 04 / スケールで読む

R0別に
崩壊までの日数と生存率を比較

同じ条件(人口1万・初期1人)で、R0だけを3・4・5・6と変えてみます。R0が大きくなるほど、崩壊までの日数が短くなり、最終的な生存率がどう変わるかを見ていきます。R0=6では、わずか2週間程度で街の大部分が感染波に飲み込まれます。

R0別の最終状態:累計感染(濃)と生存(橙)の人口割合
01

R0=3:緩やかに広がる

ピークは遅く、生存率は比較的高い

R0=3では、1人の感染者が平均3人にうつします。広がり方は緩やかで、ピークに達するまでに時間がかかります。この設定では、人口の大部分が最終的に感染しますが、その過程が長引くため、対策を講じる猶予が残りやすい数字でもあります。

この設定の特徴
02

R0=4:ドラマ的設定の標準

急速に広がり、数週間で崩壊

R0=4は、多くのゾンビ作品で想定される広がり方に近い数字です。初期の1人が4人に、4人が16人にと増え、発症まで1日という速さも相まって、1万人の街は1ヶ月未満で崩壊状態に陥ります。特別な対策を取らなければ、生存者はごく少数に留まります。

この設定の特徴
03

R0=5:対策の猶予が消える

広がりが速く、初期対応の遅れが致命的

R0=5では、広がりがさらに速くなります。感染の初期段階で気づいて対策を取らないと、あっという間に制御不能になります。猶予日数はR0=4よりもさらに短く、数日の遅れが生存率を大きく下げます。

この設定の特徴
04

R0=6:制御不能

2週間以内に人口の大半が崩壊

R0=6では、1人が6人にうつす計算になります。発症まで1日の速さと相まって、感染の波は1週間で数千人規模に達します。どのような対策をとっても、この設定で人口1万人を守り切るのは数理的に極めて困難です。ゾンビ作品で「もう手遅れ」と言われる状況の数学的な裏付けになります。

この設定の特徴
CHAPTER 05 / 対策を変えて読む

対策の有無で
生存率はどう変わる?

ここまでR0を固定してきました。では、同じR0=4の条件で「対策なし」「弱い対策」「強い対策」と感染経路をどれだけ遮断するかを変えた場合、最終的な生存率はどう変わるでしょうか。これが、パンデミックものの物語で「人類が生き残れるか」を左右する分岐点になります。

星宮メル
星宮メル対策次第で助かる人が変わるんだよね? どれくらい効くの?
天城ハルト
天城ハルト対策は「実効再生産数」を下げる効果がある。感染経路を30%遮断できればR0は4から2.8に、60%遮断できれば1.6になる。1を切らせれば、感染は自然に収束に向かう。
星宮メル
星宮メルじゃあ75%以上遮断できれば止まるってことだね! 対策すごい!
天城ハルト
天城ハルトその通り。ただしその「75%」を達成するのがどれほど難しいかが、現実の感染症対策の難しさでもある。隔離・行動制限・接触減らしを組み合わせて初めて届く数字だ。
対策遮断率実効R崩壊まで最終生存率結果
対策の強さ別:最終的な生存率(R0=4・人口1万人)

対策なしでは生存率はごくわずかです。しかし感染経路を60%以上遮断すると生存率が跳ね上がり、75%で感染は収束に向かいます。つまり「1人を守る行動が全体を救う」というスローガンは、数学的に裏付けられた事実です。ゾンビ作品の主人公たちが生き残れるかどうかは、この数字に掛かっています。

CHAPTER 06 / 自分で計算してみる

条件を変えて
シミュレーションする

ここまで固定条件で見てきました。では、自分の条件ではどうなるか。基本再生産数 R0・感染経路の遮断率・街の人口の3つを動かして、最終的な生存率と感染の広がり方をその場で計算できます。スライダーを動かすたびに、結果が変わります。

星宮メル
星宮メルおお、自分で計算できるの!? R0とか対策とか、動かして遊べるんだね!
天城ハルト
天城ハルト3つの数値を動かしてみると良い。特に「遮断率」を上げて実効再生産数が1を切る瞬間、結果が劇的に変わるのが分かるはずだ。
星宮メル
星宮メルなるほどね。じゃあR0を大きくして、対策をゼロにしたら……えーっ、やばい、あっという間に崩壊!?
天城ハルト
天城ハルトその通り。逆に対策を強めると、感染は自然に収束に向かう。ゾンビものの結末が、この1枚で分かる。
1.56.0
0%90%
1千10万
最終生存率
崩壊まで
実効再生産数
ピーク時の感染者

未感染者(緑)と感染者(赤)の推移

計算方式は記事全体と同じ SIRモデル(4次ルンゲクッタ積分)です。初期感染者1人・発症まで1日・罹患期間5日間は固定で、教育用の設定です。生存率は SIRモデルでは人口規模にほぼ依存しませんが、人口を変えるとピーク時の感染者数など「絶対的な規模」が変わる様子を確認できます。現実の疾病や特定の災害を予言するものではありません。

CHAPTER 07 / 根拠と限界

計算の前提と注意点まとめ

この記事の数字は、感染症の標準的な数学モデルであるSIRモデルを使った教育用のシミュレーションです。現実の疾病や特定の災害を予言するものではありません。ここで使った前提と、モデルの限界を整理しておきます。

使った前提

  • SIRモデル(S=未感染、I=感染中、R=除去=回復または死亡)
  • 人口1万人の完全に閉鎖された空間
  • 初期感染者1人、発症まで1日、罹患期間5日
  • 基本再生産数 R0 = 3〜6
  • 対策は「感染経路の遮断率」として実効再生産数に反映

モデルの限界

  • 空間的な広がり(移動・地域差)を考慮していない
  • 個人の行動のばらつきを平均値で扱っている
  • 医療体制や資源の枯渇を含んでいない
  • 「ゾンビ」は架空の存在であり、実在の疾病を示すものではない
  • 数値は概念理解のためのもので、厳密な予測ではない

SIRモデルは1927年にKermackとMcKendrickが提唱した、感染症の広がりを3つの集団(S・I・R)の関係で記述する古典的なモデルです。シンプルですが、感染のピークや終息の条件を理解する上で今も基礎として使われています。この記事ではその枠組みを借りて、感染がどれほど速く、そして対策がどれほど効くかを直感的につかむことを目的としています。

星宮メル
星宮メルなるほどね。ゾンビは架空だけど、広がり方は本物の感染症と同じ考え方なんだ。
天城ハルト
天城ハルトそういうことだ。R0を知り、実効再生産数を下げる。その2つが感染を抑える基本になる。映画を見るときも、手を洗うときも、同じ構造が見えてくるはずだ。
星宮メル
星宮メルえへへ、次にゾンビ映画見るときハルトにドヤ顔で解説してやろっと!
天城ハルト
天城ハルト……程々にしておけ。

根拠

  • Kermack & McKendrick (1927) 「A Contribution to the Mathematical Theory of Epidemics」 — SIRモデルの原著
  • WHO・厚生労働省の公表する基本再生産数(R0)の概念
  • Anderson & May「Infectious Diseases of Humans」— 感染症動態の標準的参考書